VRコンテンツが切り開く未来とは

こんにちは。飯田如です。
本記事では、IT業界で拡大しつつあるAR/VR市場の中で、VRを利用したコンテンツとその利用例を紹介する。
VRの需要は世界規模で広がっており、「IDC Japan、世界AR/VR関連市場予測を発表 」(日本経済新聞)を引用すると、

”2017年はコンシューマー市場が、米国、日本を除くアジア/太平洋地域(APeJ)、西欧などのような地域でコンシューマー市場が、いずれの地域でも最大のAR/VR支出分野となる。”

と言われている。

また、「IDC Japan、世界AR/VR関連市場予測を発表 」(日本経済新聞)を引用すると、

“ビューワー、ソフトウェア、コンサルティングサービス、SIサービスを含むVRシステムへの支出は、主にハードウェア、ゲームおよび有料コンテンツの販売により、2017年と2018年はAR関連支出を上回ると予測されています。2018年以降、産業分野でのARソフトウェアとビューワーの導入が進むにつれ、ARの支出が急増するとIDCは予測している。”

今後日本でも、世界のVR市場の拡大に合わせてにVR関連の知識を得たり、VRを利用した産業の拡張に目を向けていくことが重要になると思われる。
本記事では、VR技術の具体的な使用方法、VRを用いたコンテンツへの応用例、コンテンツを制作している会社にどのようなものがあるかを説明する。

以下、「VRコンテンツ最前線」(桜花一門著)を引用しVR技術の応用例としてコンテンツの映像制作に着目し、映像制作前の注意点、撮影方法で実写やCGの特徴を説明する。


“VRコンテンツの映像を制作する前に

下記の内容を順に決定する

  1. どこで何人に体験させたいか
  2. 使うべきハード
  3. 再生機材

決定後は、コンテンツの映像をどのようにつくるのかを検討していく。

実写で撮影する場合

実写コンテンツの場合、まず複数台の広角カメラを使用して全方位撮影を実施する。それらの動画を合成(スティッチング)することで、一枚の「全天球動画」にする。

効果:全天球動画をVR用再生機材上で専用プレイヤーにより再生すると、あたかもその空間にいるような感じ(没入感)が得られる。

長所

〇制作の手間がCGよりもかからない

例えば、建物があって、人が出てきて、太陽が昇って・・・というVR空間を作りたい場合、実写であればロケーションを決めて撮影すれば済むが、CGの場合は建物も人も太陽も全部作らなければならない。
これは制作コストはもちろん、時間もかかる。また、全部を作るということは、クオリティを担保にするにも大きな労力が必要となる。
→実写ならば、撮影機材を用意すれば目の前にあるものを取り込むことができる。
撮影機材の性能しだいだがクオリティについても、ある程度は担保できる。
この手間の少なさが、CGと比べた場合の実写の長所。

〇コンテンツの尺が短ければコスト面で優位

長ければ長いほど、撮影にもスティッチングにも時間がかかるが、短くてパッと終わるものであればCGで作り込むよりも実写撮影の方が費用対効果の高い場合がある。

短所

●コンテンツの尺が長いとコスト面で不利になる

●撮影できるものが限られる

宇宙空間、断崖絶壁、火山の中など危険で入り込めないような場所をVR空間で再現したい場合は、撮影自体が不可能だったり危険手当を追加する必要が発生したりする。

●撮影したものしか表現できない

撮影後に時間や場所を変えることは技術的に困難なため、その点ではCGに比べて自由度が劣る。
動画がどれほどにリアルだったとしても、空間内を自由に動くことができない。
物をつかんだり、動かしたりすることもできない。このように空間内へ働きかけられるかどうかを「インタラクティブ性」と呼ぶが、これがないと受動的なユーザー体験となり、ユーザーは30秒ほどで飽きてしまう。

●3Dが表現しにくい

現在のところ多くの360度撮影機材の標準機能では、いわゆる両眼立体視による3D映像を撮ることができない。3Dで撮影する方法もあるが、難易度が高くスティッチング費用などもかさむため高コストになる。

CGで作成する場合

長所

〇手軽にインタラクティブ性を持たせられる

ゲームと同じようにその場でリアルタイムに画を作っていくため、ユーザーの操作に応じて画を変えることが可能である。ユーザーが移動したければ、実際に移動できる。
VR空間内で出てくる人間がこちらに反応してリアクションを返してくれる、なんてこともCGならできる。こちらの操作に対してリアクションしてくれる人がいると、「VR空間内に本当に人がいる!」という実在感がますため、体現がよりリッチに感じられる。

〇再生機材の描画性能を余すことなく使い切れる

実写コンテンツは撮影機材の性能にクオリティが引きずられる。撮影時の表現は撮影時のクオリティを超えられない。このため、現在の標準的な4K撮影でさえも、Oculus Riftなどのハイエンド機材の解像度を100%使い切ることはできない。
CGコンテンツであれば作成時の設定次第なため、ターゲットとする再生機材に合わせた最適な解像度で制作できる。 実写以上に高解像度なVR空間を楽しむこともできる。

短所

●コストがかさみやすい

VR空間まるごと、細かなゴミから大きな建物まで全部CGデータとして作らなければならず、その分開発コストがかかる。

●再生機材に求められる性能が高め

CGはリアルタイムに描画、すなわち演算をしていくため、Oculus RiftやHTC Viveなどのハイエンド機材に見合うハイクオリティなコンテンツでは描画計算するためのPCも高スペックな物が必要となる。例えば、1台20万円クラスのPCが必要になったりする。

●制作者の技量が大きく影響する

 CGは作り手の技量によって、再生機材にかける負担が大きく異なることがあり、熟練者かどうかによって成果物としてのコンテンツのクオリティが大きく変わる。

CGコンテンツの短所をカバーする方法

ユーザーの立場からすると、ハイクオリティなCGコンテンツを再生するためにはハイスペックな再生機材が必要という点が、体験するハードルを上げる大きな要因になる。開発者からすれば、Samsung Gear VRではある程度のクオリティを表現したいところだが、スマートフォンの描画性能とCG描画による負荷のバランスを見極めて制作するのはなかなか困難である。
また、あらかじめ全部のCGを事前に描画計算しておき、あたかも実写の全天球動画であるかのように扱って制作するCGによりこれらを回避する「プリレンダリングCG」という方法もある。

プリレンダリングCGの長所

プリレンダリングCGは、実写とCGのいいところを両取りすることができる。すなわち、CGコンテンツの特徴であるハイクオリティな映像を、実写コンテンツのように低スペックなPCでも動かせる。

プリレンダリングCGの短所

実写と同様にインタラクティブ性を盛り込むことが難しくなる。また、CGであることに変わりがないため、空間を丸ごと作らなければならずコストがかさむ。

フォトリアルと不気味の谷

実写と見間違うくらいリアルなCGのことを「フォトリアルなCG」などと言う。写真(フォト)のようにリアルだという意味である。
CGのキャラクターを段階的にリアルな人間らしい表現にしていったとき、最初のうちは好感は持たれるものの、ある時点で突然強い嫌悪感に変わり、さらにリアルになるにしたがって再び好感へと転じるというのが「不気味の谷」という人間の感情反応がある。
描画処理の負荷が高いVR用のCGでは、あえてリアルにせずに作り物であることが明確な二頭等のキャラクターだったり、人間以外の姿をしたキャラクターを使ったりすることで、不気味の谷現象を避ける選択肢もある。

選定のポイント

●どんなものを見せたいのか

まずは、VRで何を見せたいのか、よく考える必要がある。VRは従来の映像作品とは異なり、体験としてのインパクトがとても大きいコンテンツである。その体験も含めて、ユーザーに何を提供したいのかを検討する必要がある。

●クオリティはどのあたりを目指すのか

どれくらいのクオリティを実現すればよいかを考えてみる。最高級のクオリティを追求すれば一番いいが、コストが指数関数的に肥大化してしまう。

●どれくらいの長さ(分散)のコンテンツにするのか

コンテンツの体験時間を検討することも必要である。実写にしても、CGにしても、長さによって制作コストが変わってくる。実現したいコンテンツに最適な(ユーザーに楽しんでもらえる適度な)長さを考える必要がある。

●インタラクティブ性はどの程度盛り込むのか

インタラクティブ性が必要ない、主に受動的なコンテンツであれば実写でも実現可能である。しかし、ユーザーの意思で移動したり、中の要素に働きかけて反応させたりしたいのであれば、CGが少なからず必要となる。

●それぞれに適している内容とは

これまでに挙げた観点を総合的に考える必要がある。
低コストで短時間のコンテンツで良ければ実写での制作が適している。撮影機材を使用するだけなため、制作コストも抑えられるし、ユーザー体験としても短時間のコンテンツであればそれほどクオリティは気にならない。
 一方で、超ハイクオリティで長時間見てもらい、納得するまで体験してもらう場合はCGで作った方がいいかもしれない。

●CGと実写の費用のクロスライン

もし、実写でもCGでもどちらでもいい状況なら、予算・長さ・クオリティから決定することもできる。
ユーザーの体験時間が短いうちは実写の方が低コストだが、時間が長くなるにつれて高くなっていく。
一方CGは最初に空間を作る工数があるため、高コストだが一度作ってしまえば設定を変更していくだけなため、時間が長くなるにつれて工数は低くなる。

●VRの編集に関する注意点

VRコンテンツの企画を考える際には、できればVRのことをよくわかっている人にVR関連の情報の統括をお願いするのが良く、VRに精通している方は日本では数人しかいないため、「VRコンテンツ最前線(桜花一門著)」では相談してみるといいコンテンツを開発した制作会社の紹介をしている。

VRに関する注意点(VR酔い)

「VR酔い」とはVRの感想として聞かれがちな「酔った」というもので、視覚だけを置き換えるVRでは、他の感覚で感じている情報と視覚情報にずれが生じて酔うことがある。人間の体は視覚以外にも加速度や重力を感じる器官、触覚や温度を感じる器官などさまざまな器官を通じて得た情報を脳内で統合して状況を認識している。そのため、1つの感覚だけがほかの情報とずれていると脳が混乱して酔いにつながると言われている。
 VR酔いを体験してしまうとVRへの抵抗感が強まってしまい、二度と体験したくないと思う人も出てくる。

VRコンテンツの事例

以下「VRコンテンツ最前線」(桜花一門著)で取り上げられているVRコンテンツの使用例を説明する。

●シルク・ドゥ・ソレイユによる「トーテム」の360度全天球ムービー

 LIFE STYLE株式会社がシルク・ドゥ・ソレイユ「トーテム日本公演」開催を記念して制作。
 ステージショーを未体験の人々に伝えることができるコンテンツ。

●日本で初めて、VRパノラマコンテンツを使用した自治体シティプロモーション施策として話題になったスマートフォンアプリ「VR観光体験-北海道美唄市」

株式会社ダブルエムエンタテインメントが制作し、Google Play/AppStoreにて無償公開されている。

●リノベーション不動産体験

BOX VRが制作したリノベーション後の快適な生活シーンを表現した360°実写のコンテンツ。

●ルクルク

特別なHMD装置がなくても、スマートフォンやタブレットさえあればすぐにVRを体験できる。ポスターやチラシの他にもCMなどの動画にアプリをかざすだけでVRが起動するため、難しいオペレーションは不要。”

結論

VR関連市場の世界規模での拡大に伴い、日本でも様々な企業が目的に応じたVR技術を用いた映像制作を試行錯誤で取り組んでいるものと思われる。テーマに応じたVR関連機器の選定、制作会社の選定、制作会社との連携等が日本のVR市場拡大に重要なスキルとなっていくものと思われる。


参考記事

参考著書