人間の可能性の話

前回に引き続き、人間拡張学に関して、別の協会員が書きます。

■世界を驚かせた大記録!

2016年 リオデジャネイロ
オリンピックが開催されたリオで、世界を驚かせた新記録が生まれたことをご存じだろうか?
パワーリフティング 107キロ超級のシアマンド・マーラン選手(イラン)がベンチプレス310キロを記録した。
確かにすごい記録だが、この数字の何がすごいのか?


実はこの記録がたたき出された大会はオリンピックではなく、その後に行われたパラリンピックなのである。
幼少期、小児ポリオという病気になり下半身が不自由となった彼が出した記録は
ほぼ同じルールで競う健常者の記録を35キロも上回っている。

パラリンピックの起源は、イギリスのストーク・マンデビル病院で行われたストーク・マンデビル競技大会とされており、もともとは戦争で負傷した兵士たちのリハビリテーションとして行われていたらしい。

今では障がい者スポーツの大会として有名だが、健常者の記録を上回るものも数多く出てきている。
昨今の技術の発展とともに、欠損した体の部位がむしろ成長の伸びしろとなっているものばかりなのである。

■情報に触れる

手のない人が残された腕の筋肉を使い直感的に操作できる電動の義手「HACKberry」
2015年のグッドデザイン賞を受賞したこちらの開発を担う”exiii株式会社”では、
身体や感覚を「補う」ことはもちろん、さらに「拡張」する技術を研究・開発している。

EXOS Projectでは、手に特殊なグローブを付けることでVR空間にある物体に触れることができるEXOS Gloveや
離れた場所にあるロボットの手を自分の手のように操ることができるEXOS Bilateral Controlなど
元々の人間の能力に、新たに能力を加えるデバイスが多数存在する。

日進月歩である技術の革新により、人間の機能を拡張することが近い未来になりつつある。

※EXOSデバイスのイメージ↓
http://exiii.jp/exos/

■人間拡張学とIoA

ヒューマンオーグメンテーション(Human Augmentation)とは、
「人間と一体化して、人間の能力を拡張させるテクノロジーを開拓していく」というもので
能力の範囲は、知覚能力・認知能力・身体能力・存在感などと幅広い。

さらに、人間とテクノロジー・AIが一体化し、時間や空間の制約を超えて相互に能力を強化しあうIoA(Internet of Abilities)という未来社会基盤の構築を視野に入れた、最先端の研究を体系化していく学問領域である。

AR、VR、AI、ロボティクス、サイボーグ、ヒューマンインターフェースなど
様々な技術と人間が交わることで互いに能力を強化しあい、まったく新しい体験が可能となる。
IoAでは、個人の経験では習得に時間がかかる能力を、早く正確に伸ばしていくことを可能にする。

■経験をシェアする

ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)が開発する「JackIn Head」は
360度全周囲を撮影・伝送可能なウェアラブルカメラによる体験伝送システムのことである。
装着者が体験している映像を他者にリアルタイム伝送することで、他者がその映像を自由に見まわして観測し、装着者とのコミュニケーションが可能となる。

※Sony CSLが開発するJackIn Head↓

 

JackIn Headシステムにより、離れた場所にいても同時に同じ体験をすることができたり
特殊体験のリアルタイム配信やプロフェッショナルトレーニングなど
通常体験することが困難な経験をシェアすることができる。

※参考リンク:SportsVR
http://www.panoplaza.com/movie/sports-vr/sports-vr/

インターネットにより離れた場所にいてもコミュニケーションがとれ、
これからの時代はさらに体験をシェアすることができる。
しかもその体験は視覚や聴覚、触覚などがこれまでよりも更にリアルに、より鮮明になっていくだろう。

AIの進化とともに、これまで人間しか出来なかった仕事が奪われつつある一方で
数年前まではSF世界の出来事だったものが、現実になっている。
人類が自分自身を進化させる決断が必要になる日も近いかもしれない。