宇宙から眺める「だいち」のデータ

おはようございます。平野羽美です。
この記事をお読みいただいているみなさん、今この瞬間、窓から空を見上げるとなにが見えますか?

青い空かもしれませんし、太陽や月かもしれません。
ちなみに私はいま星空が見えています☆

このように、私たちが地上から空を見上げると太陽や月が見えますが、実は空から私たちがいる大地を眺め続けている存在がいます。

…宇宙人ではありませんよ?


宇宙(そら)から大地(だいち)を眺める存在

宇宙と聞くとロケットや月、火星の探索など、地球から外に出て行くイメージを持たれる方が多いかと思います。
将来的には海外旅行に行くような感覚で宇宙旅行ができる日が来るかもしれませんが、それはもう少し先の未来でしょう。

そんな宇宙に関する取り組みである「宇宙産業」が実は内閣府が発表しているSociety5.0の中では、今後注力するべきキーテクノロジと位置づけられています。
2017年12月に実施された第16回宇宙開発戦略本部では、安部首相から「Society5.0社会を実現する上でも宇宙利用は大きな可能性を秘めています」という発言もあり、これからの技術革新が見込まれる領域です。

宇宙産業というと、ロケットや惑星探査のイメージが強いですが、実は私たちに身近な例として「衛星」を活用した取り組みが多数存在しています。

衛星というと、地図上で自分のいる位置を取得できるGPSや衛星放送のような利用例が一般的かと思います。
私もスポーツやアニメなど、見たい番組を見るときに衛星放送にはお世話になっています。
少し話がそれましたが、私たちが見ている空には現在、約4,400機以上の人工衛星が浮かんでおり、常に私たちのいる大地を見続けています。

衛星の種類と得られるデータ

人工衛星には複数の種類があり、それぞれ得られるデータが異なります。
例えば、測位衛星のデータを活用すると、カーナビゲーションなどの位置情報を利用したサービスが実現できます。
気象衛星や地形観測衛星のデータを活用すると、天候の予測や災害状況把握など防災関連のサービスが実現できます。

このように、衛星を活用したサービスはすでに私たちの生活の一部となりつつあります。
さらに、経団連が発表している宇宙産業ビジョンの策定に向けた提言には「すべてのモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)時代においては、衛星は宇宙からの貴重な広域情報を取得するための強力なツールとなる」と記載されており、人工衛星からのデータがさらに重要な意味を持ってくると考えられます。

実際に、人工衛星から得られる観測データの流通や課題解決の方策など新たなビジネスが創出されることも期待されています。

日本の衛星

このように注目されている人工衛星ですが、日本でもこれまでに約150機を打ち上げており、現在も70機程度が稼働中です。
今回の記事では、大地の観測データを利用するという観点から、陸域観測技術衛星「だいち」について取り上げていきます。

陸域観測技術衛星「だいち」

陸域観測技術衛星「だいち」は、世界最大級の地球観測衛星で、2006年1月に打ち上げられ、耐用年数が過ぎる2011年5月まで地上の状態を詳しく観測する用途で運用され、地図作成、地域観測、災害状況把握、資源調査などに貢献しました。

「だいち」は、地球資源衛星1号「ふよう」と地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」の開発と運用によって蓄積された技術をさらに高性能化した衛星で、観測機器として以下3つの地球観測センサを搭載していました。

  • 標高など地表の地形データを読みとる「パンクロマチック立体視センサ(PRISM)」
  • 土地の表面の状態や利用状況を知るための「高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)」
  • 昼夜、天候によらず陸地の観測が可能な「フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)」

これらの「だいち」で培った技術は、後継機の陸域観測技術衛星2号「だいち2号」へと引き継がれています。

陸域観測技術衛星2号「だいち2号」

陸域観測技術衛星2号「だいち2号」は、陸域観測技術衛星「だいち」の後継機で、Lバンド合成開口レーダ「PALSAR-2」を搭載し、暮らしの安全の確保・地球規模の環境問題の解決などを主なミッションとしています。
陸域観測技術衛星2号「だいち2号」の特徴は

  • 防災機関における広域かつ詳細な被災地の情報把握
  • 国土情報の継続的な蓄積・更新
  • 農作地の面積把握の効率化
  • CO2吸収源となる森林の観測を通じた地球温暖化対策

など、多岐に渡ります。
「だいち2号」に搭載されるLバンド合成開口レーダは光学センサとは異なり、昼夜・天候の影響を受けずに観測できる(※)ことが特長です。

※ 光学センサでは、衛星から地表を視認する必要があったため、太陽光による発光源がない夜間や、雲や雨がかかっている場合には正確な観測が困難という課題がありました。

これに対して、Lバンド合成開口レーダは、地表面から反射される電波を受信することで情報を得る方式のため、観測時に太陽などの発光源を必要とせず、昼夜を問わず観測できるのが特長です。
また、電波の送受信に利用しているLバンドと呼ばれるマイクロ波帯(1.2GHz帯)は、雲や雨の影響を受けにくく、天候によらず地表の観測ができます。

衛星から得られたデータの分析

陸域観測技術衛星2号「だいち2号」から得られたデータを分析した結果は、こちらのページで公開されています。

http://www.sapc.jaxa.jp/use/data_sample/alos2/

このページでは、JAXAが世界中のいくつかの地域を衛星から観測した情報を公開しています。
例えば日本では、静岡県から山梨県に至る富士山西麓や富士五湖、甲府盆地を含む地域の2時期(2014年10月28日と2014年11月11日)の画像からこの期間における標高や地表面の変化を可視化した画像(InSAR画像)が公開されています。

InSAR画像の生成には、人工衛星に搭載された合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)によって観測された画像(SAR画像)を同じ範囲で別時期に2回観測し、各画像に差分干渉処理(インターフェロメトリ処理)を行うことで生成しています。

このデータを活用すると、地形の変化をすばやく把握し、土砂災害や火山活動など大きな被害が出るような災害の発生を未然に検知、防止することができます。

まとめ

今回の記事では、Society5.0実現の注力分野にも位置づけられている宇宙産業の一例として、日本が運用してきた観測衛星とその衛星から得られたデータを分析した結果についてご紹介しました。
この観測衛星から取得されるデータは、オープンデータとして一般に活用できる形で公開していくことも検討されていますので、今後は衛星データを活用したビジネスや衛星データとAIなどを組み合わせた事例なども増加することが考えられます。

私たち未来技術推進協会でも、宇宙に関わる最新情報や技術動向に注目しており、その一環として2018年4月29日に宇宙科学シンポジウムを開催します。
こちらのシンポジウムでは、世界的にも有名な宇宙科学の第一人者であり、民間の力での人工衛星打ち上げを計画してされているASTREX代表の菊池秀明氏をお招きしています。

この機会に、最先端の宇宙産業について知ってみるのはいかがでしょう?
もちろん私も参加します♪

参考