指1本で世界を動かす?SDGs達成の鍵「システム思考」とは? (前編)
こんにちは。TabiOです。
今までSDGsの取り組みの具体例や団体について紹介してきました。
今回は少し志向を変えて、SDGsの目標達成に向けてどんなアプローチがあるのかを考えてみたいと思います。
紹介するのはシステム思考(システムシンキング)というアプローチです。
実は私の卒業論文で使用していたツールです。
企業ではGE(ゼネラル・エレクトリック)の全社員が使える技術として、強力なリーダーが不在でも機能する組織を作り上げたことでも有名です。
なぜSDGsに効果的なのか?
システム思考の説明はあとでしますが、なぜSDGsに対して効果的な1つのアプローチになるのかと言うと、全体像を把握し、持続的な解決策を探るために適したツールだからです。
SDGsは17の目標と169のターゲットが存在しており、それぞれのターゲットや目標が複雑に絡み合い連動している部分も多々あります。
例えば、紙を大量に使用すると環境に悪そうだから、全て電子ペーパーに置きかえよう!と言って大量にサーバーやPCを購入し、ペーパーレス化を推進したとします。
紙の使用量が減るので目標12や目標15に貢献していて良さそうですが、実はサーバーを大量に購入することで、希少金属(レアメタル)を大量に消費するため、発展途上国の採掘地では過剰な労働になってしまったり、天然資源の消費が激しいということで、目標12も下がってしまうかもしれません。
このように、良いと思ってした行動が、実は悪い影響の方が大きかったと言うことも少なくありません。(上記は例のため実在する国や組織等は関係ありません)
つまりアクションをするにしても、活動した際の影響や関わる事象、関係者を把握できていた方がより効果的なアプローチが可能となります。
そこでSDGsのような複雑な課題のアプローチ手法として注目を浴びているのがシステム思考です。
システム思考って何?
あらゆる現象を1つのシステムとして捉え、全体の構造を把握し、問題解決に導くとされている思考方法です。要素の因果関係を「つながり」として捉え、全体の構造を「つながりの連鎖」として表現します。
出来事は氷山の一角
システムは、「出来事」、「パターン」、「構造」、「メンタルモデル」という4層に別れていると言われています。普段は「出来事」だけが見えているのですが、実際は氷山の一角です。
それぞれの層について説明します。
- 出来事
- パターン
- 構造
- メンタルモデル
スナップショットのようにある一瞬を捉えたようなものであり、出来事だけの解決策を考えても短時間しか持たない傾向にあるといわれています。
出来事を時系列で追ったもので、出来事を予測する事が可能となり、問題に対し順応する事ができます。
パターンを作る原因であり、構造を変える事が出来れば、問題を根本的に解決する事ができ、新たなシステムを作り上げることが可能になります。
構造を形成している人間の思い込みの部分です。
その時々に出来事、パターン、構造、メンタルモデルのどの段階で問題に取り組むべきかを理解する事が重要になってきます。
では具体的にどんな手法を使っているのでしょうか。
システム思考で使用するツール
今回の記事では3つ紹介します。
(1)時系列変化パターングラフ
システムの主要な要素(目標とするアウトプット、インプット、活動量、資本・資源、影響など)の過去から現在、未来までのパターンを折れ線グラフで描きます。
例えば、営業の成約件数を上げたいとなれば、縦軸の変数は「成約件数」という変数になります。その場合、過去から現在までの線と、過去から何も変えなかった場合の線、理想の成約件数のグラフはどんな角度になるのかを書くことで、過去・現在・未来の変数の動きと理想の状態が見えてきます。
後に紹介する因果ループ図と照らし合わせながら検討するとより効果的です。
(2)ループ図(因果ループ図)
「今までのパターン」「このままのパターン」がなぜ起こるかについて、システムの主要な要素及びそれらに影響を与える要素、影響を受ける要素を列挙し、要素間の因果関係を矢印で結びながら、要素間の相互作用を見出すためのツールです。
※筆者作成
図について説明します。
オレンジ色のSは、Sameで同じ方向に変化することを意味しています。(片方の要素が増えれば、もう片方も増えるという感じです。)
オレンジ色のOは、Oppositeで逆方向に変化することを意味しています。
青色のRは、ReinforceのRで拡張するループです。
青色のBは、BalanceのBで一定の状態を保とうとするループです。
上記の図は2つの要素で相互依存関係を表現していますが、実際はもっとたくさんの要素を組み合わせることで、複雑な因果ループ図を作ることが可能です。
(3)レバレッジポイント
てこの作用点を意味し、小さな力で大きな成果を生み出せる点のことを指しています。
実はタイトルの指1本で世界を動かすと言うのはこのレバレッジポイントのことを指しています。世界中の構造を表現できたら、レバレッジポイントに指1本程度の影響を与えるだけで、世界中を変えることができるという比喩表現です。
例えば、多くの都市では、渋滞があると道路建設で道路を走りやすくしますが、渋滞は改善されないことが多いです。スウェーデンのストックホルムでは、都市部の制限速度を下げ、道路のスピードを出しにくくすることで渋滞を4割減らしました。自動車の魅力が減り、公共機関や自転車の利用者が大幅に増えたからです。
上記の例では、新たに道路を建設して解決を図るより、制限速度を下げるだけで渋滞という課題解決に大幅な改善に成功しました。
時系列変化パターングラフや因果ループ図、実際の現場の状況を理解しながら、どこの要素に働きかけると全体への影響が最も大きいかを判断する作業が必要になります。
このレバレッジポイントを発見するために、各要素のステークホルダーを含めて議論するとより効果的だと言われています。
まとめ
少し難しい内容でしたが、わかりましたでしょうか?
今回は簡単な例でしたが、実際の企業や団体では複雑な状況を紹介したツールを活用し、情報を整理し、問題解決に取り組んでいます。
日本ではまだまだ取り入れている企業や団体は少ないですが、SDGsのような様々な要素を含んだ目標を達成するためには有効なツールかと思います。
次回はシステム思考の中でも、システム原型、ストック&フロー等さらに深い部分について紹介したいと思います。
以上、TabiOでした。
参考
参考書籍
- なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?(枝廣淳子、小田理一郎著)