世界を変革するテクノロジー!?その名も「バイオセンサー」
みなさんこんにちは。
中村忍です。
突然ですが、みなさんは「バイオセンサー」という単語を聞いたことありますでしょうか。筆者は、大人気ロボットアニメ「機動戦士Zガンダム」で耳にしたことがあります。主人公の意思に呼応して、主人公搭乗のロボットの制御装置が外れ、ビーム兵器が巨大化したり(ビームの出力が増幅)、ライバルのロボットをハッキングして動作不能状態にさせるなど、オカルト的な現象が表現されていました。
このバイオセンサーとやら、現実世界で登場しないかどうか気になり調べてみたところ、医療や理工学の分野で登場することがわかりました。しかも、意外とアニメで出てくるバイオセンサーと似ている部分もあるのではないかと思います。
そこで、今回紹介するのは、バイオセンサーとその基盤技術である「ナノ粒子」についてです。特にナノ粒子は、エクスポネンシャル・テクノロジーと呼ばれる28の技術のうちのひとつに相当します。
バイオセンサーとは何か?
バイオセンサーを直訳すると、「生体」+「検知器」となります。
センサーという言葉自体は知っている方も多いと思います。一般的なセンサーの役割は、熱、光、電気など何かしらの物体を検知し、数値化することです。例えば、温度計の度数やコンセントのワット数といった形が挙げられます。
対してバイオセンサーは、通常のセンサーと異なり、「分子レベル」で生体を識別できます。すなわち、人などの「検体」に対して、酵素といった「生物学的要素」を反応させ、その反応を「電気信号」に変換します。結果、ヘモグロビンや特異抗原などの物質が存在するかどうかや、どれぐらい存在するか(濃度)を検知します。
※酵素 … 生体で起こる化学反応に対して「触媒」として機能する分子のことです(実体はタンパク質)。
いわゆる、おなじみの体脂肪率測定や心電図などもバイオセンサーの一種です。
ここからは、バイオセンサーの仕組みについて、生物内の特定の物質を検知する流れを事例に見ていきましょう。
バイオセンサーの仕組み
まずはじめに、「基質認識部位」というのがあります。ここでは、検体の中に存在する特定の分子を識別する処理が行われます。具体的には、センサー内の基質認識部位と検体との間に化学反応を起こさせ、化学反応自体や化学反応で出来上がった生成物をもとに、特定分子を認識します。
※基質 … 生体内のほとんどの化学変化は酵素(enzyme)というタンパク質によって触媒されます。酵素と結びいて変化を受ける物質のことを「基質(substrate)」といいます。
次に、「トランスデューサ(変換器)」です。ここでは、基質認識部位で認識された特定分子の情報を電気信号に変換します。
その後、電子信号は、正確に読み取るために「増幅器」によって適切な単位に変換されます。増幅された電気信号は「プロセッサ(処理装置)」によってデジタル処理され、最終的に認識された特定分子がディスプレイに表示されます。
図:バイオセンサーの構造(出典:フロスト&サリバン)
ここまでで、バイオセンサーで特定分子を検知するためのおおまかな流れを紹介しました。
実は、1つ1つのステップはもっと深く、特に「基質認識部位」で分子検知にするためには、金、銀、銅といった金属のナノ粒子である「金ナノ粒子」と呼ばれるものを使用することがあります。
そもそもナノ粒子とは、1~100 nm(ナノメートル。10のマイナス9乗メートル)程度の大きさの粒子のことを指します。防水スプレー、歯磨き粉、サプリメントなど、お馴染みの製品にもナノ粒子が使われています。
ナノ粒子は「ナノバイオテクノロジー」と呼ばれる基盤技術に含まれます。ナノバイオテクノロジーは大きく分けて「ナノマテリアル」「ナノバイオロジー」「ナノ計測」といった分野から構成されます。
・ナノマテリアル … ナノ粒子、ナノチューブ、フラーレンなど
・ナノバイオロジー … DNA、タンパク質など
・ナノ計測 … ナノマシン、ナノデバイスなど
ちなみに、バイオセンサーはナノバイオテクノロジーを応用した技術となります。
話を元に戻しますと、金属のナノ粒子は、近年いろんな研究者に注目をされているそうです。金属はナノ粒子になると特異な性質を示します。すなわち、「表面プラズモン共鳴」という自由電子が集団で動きだすという現象が発生し、自由電子の動きによって起こる振動と光とが共振することによって「発色する」といったことが起こります(金は赤色に、銀は黄色に発色)。そこで、たとえば、分子認識部位を「金ナノ粒子(金=元素記号Au)」表面に付着させることで、分子の凝集反応を色の変化で捉えることができます。
金ナノ粒子の用途としては、インフル エンザウイルスのチェックや特定タンパク質を検出するセンサーとして利用できます。他にも、銀ナノ粒子はマスクに付着させることで抗菌性を検討する研究に使用され、銅ナノ粒子は低毒性や安価なため、例えば積層セラミックコンデンサで主流となっている高毒なニッケルの代替元素となったりもします。
まとめ
以上、バイオセンサーについて、簡単に紹介しました。
バイオセンサーは、分子のレベルで細かく検査でき、また、「高速で応答する」「コンパクトな構造」、「開発コストが妥当」といった特徴を備えているため、従来の分析ツールに代わるようになってきているそうです。
特にヘルスケア業界では、生体検査が頻繁に、幅広く実施されており、人件費や時間的コストを抑えるためにバイオセンサーが導入されています。
また、バイオセンサーは、2021年には2.8兆円市場にも成長すると見込まれており、医療だけでなく、食糧、環境、エネルギー、デバイス分野など次世代技術としての応用が期待されています。
他にも、バイオセンサーの分野では、人間の感情の起伏を検知する研究もおこなわれており、これができると冒頭で話したロボットアニメの描写が再現できるのではないかと、個人的に妄想しています。