富士通が開発したコンピュータ「デジタルアニーラ」とは!?

記事一覧

富士通が開発したコンピュータ「デジタルアニーラ」とは!?

みなさんこんにちは。
松下忍です。

今回は、量子コンピュータの最新情報についてお伝えします。
量子コンピュータマニアの読者の方々に朗報です。2017年5月に、富士通とカナダの1QB Information Technologies Inc.(以下、1QBit社と略)が協業し「量子コンピュータ技術を疑似的に応用したコンピュータ」を開発していくことを発表しました。
このコンピュータは、「デジタルアニーラ」と呼ばれています。


デジタルアニーラとは何か?

デジタルアニーラは、量子コンピュータの方式の一種である「アニーリング方式」の考え方を応用しています。先ほど、「量子コンピュータ技術を疑似的に応用したコンピュータ」とお伝えしましたが、なぜ疑似的かと言いますと、そもそも量子コンピュータそのものを開発したわけではなく、私たちが現在使っているコンピュータと同じようにデジタル回路技術を元にしながら、量子アニーリングマシンがやっている計算方法を真似ているためです。
そのため、構造上はデジタル回路技術のコンピュータの延長上にあります。(以降、デジタル回路コンピュータ=既存のコンピュータと略)

量子コンピュータについては後程触れますが、既存のコンピュータと構造上違う点は、既存のコンピュータは0と1のどちらか一方を持つことしかできませんが、量子コンピュータは0と1の状態を同時に持つことができるところです。
デジタルアニーラは、既存のコンピュータの延長上の構造であるため、0と1の状態を同時に持つことはできませんが、富士通によれば、デジタル上で0と1を同時に持つ状態を乱数を用いて疑似的に表現しているそうです。

また、この乱数を使った仕組みはFPGA(field-programmable gate array)を使って構築しているとのことです。
FPGAは、コンピュータの回路のふるまいをプログラマブルに即座に変更できるもので、画像処理専用プロセッサであるGPU(Graphics Processing Uni)や、ディープラーニング専用AIプロセッサであるDLU(Deep Learning Unit)と同様に、大量のデータを並列に処理できるということで、近年注目されています。

量子コンピュータについてのおさらい

ここでは、量子コンピュータについて簡単に触れておきます。量子コンピュータとは何か?といった詳しい内容については、量子コンピュータの第一人者である東京工業大学西森教授のホームページ等をご覧ください。(西森教授の研究室URL
また、未来技術推進協会のHPでも説明していますので、ご覧ください。

さて、量子コンピュータは、「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2種類のタイプに分けれます。

量子ゲート方式は、現在のコンピュータの上位互換にあたり、Google、IBM、NASAなどが開発していますが、量子ビット数も数十個程度と十分ではなく、実用化するためには10年以上かかるとも言われています。
量子アニーリング方式は、「組み合わせ最適化問題」を解くのに特化した量子コンピュータで、カナダのD-Wave社が実現したことで有名です。量子ビット数も2048個と、量子ゲート方式と比べると多く、今後もどんどん増えていくといわれています。ちなみに、D-Wave社の量子コンピュータは、西森教授ら日本の研究者が20年前に出した理論がベースとなっています。

量子コンピュータにおけるアニーリングとは、材料系における「焼きなまし」の工程を、コンピュータの計算工程に取り入れたものです。例えば、鋼を適当な温度に加熱した後にゆっくりと時間をかけて冷却するように、コンピュータの計算工程でも同じようにさせていきます。ジグソーパズルで例えると、従来のやり方では、全組み合わせを確認しながら間違ったら戻って手当たり次第はめていきますが、アニーリングでは、パズルのピースを全部入れてしまい、揺らしながらある一定の形に収まるようにしていきます。ピースを枠の中に完全に埋めることはできませんが、だいたいは埋められるため、近似解といったとりあえずの答えを手早く知りたい場合に有用です。

量子コンピュータは既存のコンピュータと何が違うのか?

ここで少し、コンピュータの原理についてお話します。
コンピュータは情報を「0」と「1」の集合体で表現します。その一つ一つは「ビット」と呼ばれます。既存のコンピュータでは、電圧をかけたときの電流の流れがあるかないか(ONかOFFか)で、ビットを表現します。

それに対し、量子コンピュータでは、量子の重ね合わせの原理により、1つのビットで「0」と「1」の両方を「同時に」持つことができます。なぜそうなのかは割愛します。下記IBMのリンク等をご覧ください。量子コンピュータのビットは「量子ビット」と呼ばれます。
「0」と「1」を同時に持つことができるということは、複数の状態を一度に表現することができるということになります。

コンピュータで問題を解こうとするときに、考慮すべき要素が複数ある場合、その要素の数に応じて指数関数的に計算時間がかかります。
例えば、全ての都市を最短距離で回る経路を求める「巡回セールスマン問題」を解くことを例にとりますと、巡回する都市が30都市になった場合(都市の数=要素数)、29 x 28 x … x 2 x 1 ÷ 2=1京 x 1京ものルートがあり、その中から最短経路を求めることになります(円順列(n – 1)!から逆回りの分を2で割って算出します)。

富士通によれば、これを既存のデジタル回路であるスーパーコンピュータに総当たりで計算させると、8億年かかるそうですが、量子アニーリング方式のコンピュータで計算させると1秒以内に算出できるとのことです。

量子アニーリング方式は、巡回セールスマン問題のような「組み合わせ最適化問題」を解くことに特化しています。解決したい問題から組み合わせ最適化の部分を抽出し、量子アニーリングマシンに渡すパラメータを設定すれば、計算させることができます。
パラメータの設定はどのように行うかといいますと、コンピュータに解かせたい問題を、以下の数式で表される「イジングモデル」の形に落とし込みます。

量子アニーリング入門
出展:物理のいらない量子アニーリング入門(株式会社ブレインパッド)

量子アニーリングでは、イジングモデルで表されるHが最小となる2値パラメータSi, Sj(=スピン)の組み合わせを見つけることにより、最適解を求めます。Hは、ハミルトニアンと呼ばれ、スピンの状態に応じたエネルギーを表します。詳しくは、参考にある「物理のいらない量子アニーリング入門」をご覧ください。

なぜ今、量子コンピュータへの需要が高まっているのか?

ここまで、量子コンピュータについて話してきました。D-Wave社の量子アニーリングマシンの登場や、量子アニーリングの考え方からヒントを得た富士通のデジタルアニーラの登場など、量子コンピュータへの需要が高まっている背景には、既存のコンピュータでは演算速度に限界が出始めたからという点があります。

みなさんは「ムーア法則」を聞いたことがありますでしょうか。ムーアの法則とは、コンピュータメーカーのインテルの創業者である、ゴードン・ムーア氏が提唱した、「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」という、半導体業界の経験則に基づいた法則です。
近年、このムーアの法則に限界が来ており、ムーア氏自身も、「ムーアの法則は長くは続かないだろう。なぜなら、トランジスタが原子レベルにまで小さくなり限界に達するからである」と、IT Mediaのインタビューで話しています。

2016年時点での集積回路の素子1つの大きさは、10nm(ナノメートル)まで微細化されています。今後技術が進歩して5nm付近になりますと、原子1個の大きさ(約0.1nm)が電子回路を実現する上で様々な影響を受けるため、限界とされています(集積回路の微細化により、電子回路を構成するリード線(銅)の幅が狭くなると抵抗値が大きくなるため、電流が流れにくくなるなどの影響があります)。

そのような中で、D-Waveが量子アニーリングマシンを出したのもあり、量子コンピュータへの需要が高まっています。

富士通のデジタルアニーラとD-Waveの性能比較

D-Wave社は、2011年の5月に、世界初の商用量子コンピュータとしてアニーリング型の量子コンピュータを出し、現在もなお開発が続けられています。
D-Waveの量子コンピュータとデジタル回路であるデジタルアニーラとどのぐらい性能が違うのか気になるかと思いますので、富士通がまとめた技術比較資料を基に、その一部について紹介します。

  1. 量子ビット数・・・D-Waveが2048Qbitに対してデジタルアニーラは1024bitと半分。
  2. ビット間結合※・・・D-Waveが10Qbitに対し、デジタルアニーラはは全てのビットが結合。
  3. 動作環境・・・D-Waveは絶対温度(-273度)まで冷やさないと稼働できないのに対し、デジタルアニーラは常温で稼働可能。
  4. 安定性・・・D-Waveはエラー率が高く、デジタルアニーラはほぼゼロ。

出展:PC Watch

※ビット間結合=複数の量子ビットを読みだすこと。量子ビットの量子状態を乱さずに結合することは難しいと言われている。

富士通によれば、デジタルアニーラは、規模・結合度・安定性など、動作的には世界で唯一現実社会への問題に適応可能と言われています。
また、デジタル回路なので拡張は比較的容易であり、2018年度には規模、精度ともに大幅に拡張予定であると言っています。

デジタルアニーラを使った取り組み

デジタルアニーラが組み合わせ最適化問題を量子コンピュータ並みに高速に解けて、実用度も高いことがわかりました。
では、どのような分野での応用が期待されているのでしょうか?

デジタルアニーラは、創薬、投資ポートフォリオ、物流、デジタルマーケティングなどの分野での活躍が期待されます。
例えば、創薬の分野では、分子構造特性を比較しながら求めたい特性を持った分子を見つけることが可能です。富士通による実験では、インフルエンザの薬である「リレンザ(ザナミビル水和物)」に似ている分子を探索した結果、同じくインフルエンザの薬である「イナビル(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)」が表示されるなど、既存のコンピュータでは膨大な時間がかかる計算を短時間で行うことができたとありました。

また、投資ポートフォリオの世界では、分散投資のための銘柄の組み合わせの中から、ローリスクかつハイリターンな銘柄を求めることもできるようです。
20の銘柄の組み合わせを考えますと、100京以上にも及ぶことになりますが、デジタルアニーラを使えば、500もの銘柄までの中から、ローリスクハイリターンの分散投資配分を瞬時に導き出すことができるようです。

これに目をつけ、デジタルアニーラを導入しようとする企業も出始めています。三菱UFJ信託銀行では、デジタルアニーラを用いて大量のデータを超高速で分析し、資産運用に生かす実証実験を始めたとの発表があります。

富士通の今後の戦略

富士通は、AIに関する取り組みを30年以上にも渡って続けており、「Zinrai」と呼ばれるディープラーニングの計算を行うシステムを2017年より提供しています。ZinraiはNVidia社のGPU(Graphics Processing Unit)を使って構成されていますが、それにデジタルアニーラを適用する取り組みも始めているようです。

デジタルアニーラ自体も、2018年度中には現行の1024bitから10万~100万bitへ拡張していくそうで、世の中の社会問題を解決するための実用的なコンピュータとして貢献することを掲げています。

いかがでしたでしょうか?
デジタルアニーラの登場によって、世の中の量子コンピュータに対する注目度も高まっていくのではないでしょうか。
未来技術推進協会でも今後の量子コンピュータの動向について追っていきます。

参考

スパコンで8億年かかる計算を1秒で解く富士通の「デジタルアニーラ」

富士通、試作にFPGAを使用

ムーアの法則の終焉──コンピュータに残された進化の道は?

ムーアの法則の次に来るもの「量子コンピュータ」

2021年、ムーアの法則が崩れる?

IBM 超並列計算を可能にする「量子重ね合わせ」

物理のいらない量子アニーリング入門

AIと量子コンピューティング技術による新時代の幕開け

説明可能なAIと量子コンピューティグ技術の実用化で世界を牽引 – 富士通研 2017年度研究開発戦略

三菱UFJ信託銀行が富士通デジタルアニーラの実証実験を開始へ

今度こそAIがホンモノになる? 富士通がAIブランド「Zinrai」の戦略を説明